20年前、20年後の手紙

<20年前、20年後の手紙>
トライやる・ウィーク20周年特別企画「島っ子アニマルコンチェルト」を終えて

1996.2.29
30才の私、元気にやっていますか?
多分色々な嬉しいコトも、悲しいコトも経験して、それでも今と同じ私自身であることに変わりないんでしょう。ただ素敵に年を重ねてくれているといいナ。この不思議な手紙の内容覚えてるのかなあ。今日のleap partyの事も。3/5にいよいよ卒業式があって、私が想う道、バレエの道に進もうとしてる。きっと懐かしいでしょ?いい人と会った?(笑)もしその人が隣にいたら抱きしめてあげてね。けど一人だとしても、もう一人のあなた(私)が心から幸せを願っていることを忘れないで。くさいかなー。ま、いいか。(てれない、てれない、バカ?)
お酒とかタバコやってない?やってたら即やめるんダヨ。今の私との約束守っててくれてるといいな。なんか色んなこと質問したいことがあるけど、過去の記憶をたどる方が難しいだろうな。今は使われていてもすたれてるものとか知ってるんだよね。30才の誕生日がどうだったかも。 今の私の気になることは、卒業文集に寄せた自分の”名もなき詩”のコト。その中で「たとえそれで何かを失ったとしても、それが今の私なのだから」と書いたんだけど、私は何を失ったのかな。得るものの方が多くて紛れちゃったのかな。とにかく分かんない。
今これを読んでいる私なら知ってる?失った後何を感じるのかな。辛いとか嫌だとか、けどそうせずには居られなかった哀愁のような・・・こんな事、変?本トはあって欲しくないんだけどネ。
昨年の夏、初めてホームスティして、それから一ヶ月に一度くらいの間隔で写真とつたない手紙出してる。私が30才ならきっとStacieは29、Lindsayが27、Mitchが23くらいなのか。今の私が努めていることは出来るだけ色んな国の人と友達になること。30才になってもまだ人生の半分にもなってないあなたのこれから。又、祥子ちゃんやフジタと集まってタイムカプセル創ったりして!?12年後、オリンピックきっとあるね。今年はアトランタ(ジョージア州の)であるんだけど実際に観に行けないだろうな。いつかじかに観たいんだけど。長野はどうだろ(爆笑)なんか現実的になってきちゃった。
18才のあなたから30才の私へ贈る言葉
幾つになっても夢を追い続けていてね。

2017.12.4
30歳のあなたに宛てた手紙、9年後に届きました。ありがとう。
すっかりと間が空いてしまったのに、とても優しい内容で愛おしかったです。
自分でないようで、自分であったことに驚きながら、過去の自分に向き合いたいと思いました。

この一週間は、中学生13、14歳の女の子3人と音楽とダンスの舞台を創りあげるプロジェクトに関わらせて貰っていました。とても素敵な沢山の大人達がこの舞台を支えてくれていました。ちょうどそんな時にこの手紙が届いたこともあり、中学生の彼女達に20年後の自分に宛てて手紙を書き、読んでもらいました。あなたと同じように、結婚したか、どういう夢を叶えているか、アニメを観るのは卒業したか、親孝行しているかと訊いていました。

私はこの舞台の後に久々に嬉し泣きをしました。彼女達に言葉を贈る時、こみ上げてきたものがありました。1日であっという間に成長し、言葉を吸収し、身体に浸透させることの出来る彼女達に毎日なんと言葉をかけたらよいか考えていました。本番の翌日に大人達だけで話した時に、本番の瞬間凄く集中していたはずなのに覚えていないことが分かりました。その瞬間を生きているはずなのに、時がすり抜けていっているのに気付かされる思いでした。

本番がはじまる前に、3人それぞれに音楽や踊りに関してだけでなく、これから何か支えになる言葉を贈れたらと考えていました。幸運なことに6年もの間一緒に活動してきた音楽家やダンサー、プロデューサー、制作、テクニカル・スタッフが私の周りにいて下さって、毎日意見を交わしていました。自信のなさや他人と比較することに気を取られるよりも、なぜ今ここに来るという選択をして表現する一歩を踏み出そうとしたのか、その表現の核にあるものは何なのか。声かけ1つで変わってしまう彼女達の危うさが、逆に強さになると思っていました。行きの電車で「夜を乗り越える」という又吉直樹さんが書かれた本を読んでいたのですが、なぜ純文学が必要かというくだりを本番前日に読んでいました。あなたの未来に出版された本で、とても活力になる本です。18歳の私にとって、夜は今よりもっと朝に続いていて、ずっと光の中にいるのに実感が持てていなかったような気がします。信じられるすべや強度を持っていなかった時にこの本に出逢っていたら、今と違った読み方をしていたかもしれないと思います。

あなたからの手紙が届いた時、私が友人から預かっていた手紙の存在を思い出し探しました。1つ封がされた封筒を開けると、紅葉した山と草原を背景にネイティブ・アメリカンと立派な角を持った鹿が描かれていて、中にこう書いてありました。
「草原の音楽に銀の川の歌を 
あなたが歩く道に日差しを持ち、
あなたの夢に魔法をかける」
今こうやって少しずつ思い出そうとしながら、その時書いていた日記を読み返してみると、論語や文学、歌詞、映画の台詞などを原文のままメモし、時々鬱屈した文章を書き、現実と格闘し、そのままを受け入れようとしていたのが読み取れます。1人上京して夜を過ごすのが怖くて、朝までコメディ映画を観て、学校を休んでいたのを思い出しました。18歳の私は優しさがあり、同時にどうしようもない程不器用さ満載の人だったんじゃないかと今は思います。
1つずつ答えるなら、うるう年に友人とラジオのように語ったのをテープで録音し、タイムカプセルを作ろうとしたのは覚えています。今隣にいい人はいず、煙草は吸わず、お酒はたまに呑みます。30歳の誕生日はフランスで過ごしたように思います。ダンスが本当に思わぬところに連れていってくれて、あなたが驚くような人や場所に出逢うことが出来ています。ホームスティさせてもらったグレソンさん一家とはSNSで繋がっています。新しい家族が増えていて、お誕生日の時にメッセージを送ったりしています。
結局のところあなたの不器用さは改善されていないように思います。中学生に話しながら、自分にも言っていると伝えた言葉「間違えたら、すぐに頭を切り替え、入れる所から入る」と「誰かが間違っても皆でやっているのだから、補いあえば、上手くまわっていく」は、案の定すぐに自分に返ってきました。
あなたが知っているこの手紙を送ってくれた友人に、クリスマスに会うことになりました。東京で彼女は舞台照明の仕事をしています。高校を卒業して、私達は数年後沖縄で再会出来、連絡を取り合っています。
あなたに中学生の3人に伝えた言葉を贈ります。
「あなたがこれまでの日々で蓄積したこと全てが今に繋がっているように、自分が選択したことを信じて、突き進んでください。失うものは何1つありません。」(・・・くさいかなー)
39才のあなたから18才の私へ、
感謝しています。そして、20年後のあなた(私)が笑っていられますように。
 
追伸:友人から預かった手紙はどこに入れましたか?探しています。 
 
                                      京都の自宅にて